インド映画夜話

ロボット 2.0 (2.0) 2018年 147分
主演 ラジニカーント & アクシャイ・クマール & エイミー・ジャクソン
監督/脚本/原案/視覚効果 シャンカル
"この世界は、人間だけのものじゃない"




 その日、ある男が鉄塔で自殺を図った。
 彼は、あたりに群がる鳥たちに許しを請いながら、自ら鉄塔で首をくくったのだ…。

 その翌日。チェンナイにて突然スマホと言うスマホが宙に舞い上がり、いずこかへ消え去ってしまう異常事態が発生。
 生活必需品の消失にパニックが起こる中、さらに携帯電話業者や送電線管理人が次々に殺される事件へと発展。未知の技術による、通信機器に関する関係者を狙った連続殺人であると結論づけた州議会は、天才的科学者バシーガラン博士にその真相を捜査させるが、博士とその助手を務める女性型ロボット"ニラー(月の意)”は、事件の発生源と思われる場所で大量のスマホがまとまって宙を飛び、一体の巨大な鳥に変貌する様を目撃する!!
 この前代未聞の事件に対し、バシーガランは解決のために博物館に封印されているかつての発明ロボット"チッティ"の起動を提案するのだが…!!


挿入歌 Pullinangal


 2010年のタミル語(*1)映画「ロボット(Enthiran)」の続編となる、大ヒットSFXアクション大作。
 543カロール(=54億3千万ルピー)と言うインド映画史上最高予算で製作され、世界中から3000人ものVFXスタッフを結集させた一作。企画段階では、ハリウッド俳優アーノルド・シュワルツェネッガーの出演案もあったとかなんとか。

 同時公開で、ヒンディー語(*2)吹替版、テルグ語(*3)吹替版も公開。
 インドと同日には、オーストラリア、デンマーク、インドネシア、アイルランドなどでも公開されて、世界各国でその興行収入記録を塗り替えていた。日本では2019年に「ロボット 2.0」として一般公開。

 続編ではあるものの、本作1本で話は完結しているため前作未見でも問題ない作りになっている。
 その見たこともない大仰かつ大胆で、前代未聞なVFXの数々が予告編の時から話題を呼んでましたが、本編も期待をはるかに上回る驚愕映像の数々を浴びせかけられるものすごいパワフルな映画。前作を受け継ぐSF映画スタイルを保持しつつ、どちらかと言うとオカルトファンタジー色が強くなっていく物語展開に「あ、そっちに話を振りましたか!」とその語り口の変化にもビックリ。スマホが人を襲って殺しに来るところなんか、トリップ系ホラー映画にも見えて来る。
 その分、前作にあったとんでもアクションの数々の驚愕さは減ったように感じなくはないし、チッティのCGバリバリアクションも勢いが弱まった感もあるけど、前作と違う部分がよりスケールアップし、無茶苦茶なスマホ群体の暴走シーンと悪役のテンションの高さが、一度見たら忘れられないトンデモナイ効果を発揮する映画でございますわ。

 冒頭の自殺シーン以降、不可解なスマホ消失シーンからじわりじわりとスリラー度が高まっていく前半の「来るよ…来るよ…」からの巨大鳥登場(*4)、颯爽と現れるチッティに「よ! 待ってました!!」と映画の手の平で踊らされてる感も心地よいもんだし、より細かく変幻自在になった群体VFXの暴走も凄まじいやら美しいやら派手派手やらで「今体験してる感覚は、一体なんなんだろう…」とワクドキしてしまう。
 どっちかと言うと、巨鳥や巨人になった時の実体感よりも、アメーバか濁流か鳥か虫の集団のように飛び回るスマホのキラキラした幻惑めいた姿に「誰もが考えそうでありながら、誰も作らなかった映像を見ている」感が惹かれてしまうワタス。
 公開後、その扱いから携帯電話事業者協会から抗議書簡が出たと言う話もあるらしいけど、夜空をキラキラしながら飛んでいく無数のスマホは綺麗かつ奇妙でファンタジーよね…。

 前作と話はつながっているものの、共通して出演してるのはバシーガランとチッティを兼任するラジニカーントのみ?
 最初だからと自分をモデルにしたロボットを作った博士が、なんで次に作るロボットを女性型にしたのかって説明が特にないのはご愛嬌だけど、ニラー役のエイミーは、同じシャンカル監督作「マッスル(I)」に比べると疲れたような顔してんなあ…とか思って見てたんですが、単純にロボットだから無表情を保ってただけかね(*5)。再起動したチッティの登場に、バシーガラン共々ニラーも何か感動したやりとりのシーンとかあるのかな、と思ってたらわりとサクサク事態に対処してすぐ息の合ったチームになるのが、さすがと言うかなんと言うか。
 ラジニ以上に怪演を見せつけるダークヒーロー演じるアクシャイのノリノリ感も最高すぎて、なにその変身っぷりはって次々変わる姿も見もの。スマホが集まってロボット化するその姿は、「ターミネーター2(Terminator 2)」の液体金属やら「ラ・ワン(Ra.One)」の集合立方体に似ていつつも、全く違うロボット像の発明なんじゃなかろか。
 そういや、前作でバシーガランの恋人として出演していたサナ(*6)が、電話越しの声だけ出演になってたのが「おお、サービス満点じゃん!」と思ってたけど、本作では、アイシュの吹替も担当している声優サヴィタ・レッディが演じてたのねん(*7)。この調子だと、Dhoomシリーズのように、3作目が作られたらサナ自体の出番そのものがない…かも?

 チッティが博物館(科学館?)に保管展示されているのは前作ラストに出てはいたけど、悪チッティプログラムのMPU(マイクロプロセッサ・ユニット)まで別の場所に保管されてるのは、科学者としての研究根性ってやつでしょか。予告編で悪チッティが出て来るのはわかってたけど、バシー博士は2.0のプログラムを自分なりに改良することはできないまま先輩の偉業を保管していた…の?(*8)

 個人的には、パクシ・ラジャン邸での襲撃時にニラーが自分のMPUをチッティに埋め込むシーンで、一瞬庭の宿り木が映されるシーンに「んんん!!!!!!」と反応してしまったワタスなんですが、あれは意図的…? ラジャスターン民話を元とする「Paheli(難問)」で出て来る"この世に生まれなかった魂"を持つ精霊は宿り木を仮の住処としていたし、「金枝篇」を読んだ身では「肉体を変えつつ永遠に生き続ける祭祀王」の象徴としての宿り木を、チッティなりラジャンなりに重ねてしまいたくなるシーンだったけど、そう言う民俗学的ネタがわざわざ仕込まれて…いたのかなあどうかなあ妖しいなあ。

ED Endhira Logathu Sundariye (機械の世界から来た乙女)

*ある意味ネタバレ注意。劇中唯一のミュージカルシーン。


受賞歴
2018 Ananda Vikatan Cinema Awards 撮影賞(ニーラヴ・シャー)・メイクアップ賞(バーヌー & A・R・アブドゥル・ラザク & Legacy Effects)・アニメーション&視覚効果賞(V・スリーニーヴァス・モーハン & シャンカル)・街角話題賞


「ロボット 2.0」を一言で斬る!
・映画終わって、携帯のスイッチONする時に一瞬アクシャイの顔がチラつくのよね(一瞬だけネ)。

2019.10.27.

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*1 南インド タミル・ナードゥ州の公用語。
*2 インドの連邦公用語。主に北インド圏の言語。
*3 南インド アーンドラ・プラデーシュ州とテランガーナー州の公用語。
*4 なんで誰も気づかないんんだよー!
*5 時々トボけた笑顔もしてましたけど。
*6 演じたのは、かのミス・ワールドに輝いた大女優アイシュワリヤー・ラーイ!
*7 まあ、アイシュに出てもらおうとするとさらに予算がかかりそうだしねえ…。
*8 まさに、敵に渡すな大事なMPU!!